金澤つきや
明治期の町家を見事にリノベーションした店舗は、歴史が刻まれた重厚な趣の中に、選りすぐりの建材やオリジナルの建具を現代的に融合したプリミティブな空間。店の中央には、左官職人が大津磨きで仕上げた炭床を備えた竈(くど)が据え置かれ、とちの無垢板を使った美しいカウンター越しに、料理人の無駄のない仕事姿を眺めることができる。土蔵を改装した天井高のある個室と、連子格子越しに街の気配を感じる個室は、いずれもゆったりとくつろげる贅沢な佇まいで、食事のひとときを特別な時間へと誘ってくれる。
料理長の野尻貴裕さんは和食一筋30余年のベテラン。金沢を代表する料亭旅館で料理長を務めた経験もあり、伝統の加賀料理や懐石料理を自在に操る料理人だ。『金澤つきや』の開業後は、感度高く収集された新旧や和洋を問わない多彩な器を生かし、料理あしらいや器づかいにも一層磨きをかけている。懐石コースは完全予約制で夜席のみ。地元石川・金沢の山海の恵みが、熟練の技と豊かな感性によって季節の美しい献立に生まれ変わる様は、和食を食べなれている地元客の間でもにわかに評判を呼んでいる。土鍋でご飯が炊かれる様子や、炭火で食材が炙られる香りや音が味わえるのも、ほかでは味わえない醍醐味。食事を楽しむ時間をより満足度の高いものにしている。「料理はどんどん変わってきています。昔の仕事が恥ずかしいぐらい(笑)」と、自らの変化すら好ましく受け入れる野尻さんは、持ち前のバランス感覚と柔軟性で研鑽の手を止めない。店を訪れるたびに清々しさを感じるのは、作り手の人柄が表れたもてなしに知らぬ間に癒されているからかも知れない。
【特典】
本日のお酒(2合)または
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